納税のために家を売る必要があるの?
2025年05月16日
【相談実例】
養子縁組している叔母が亡くなった場合、その持ち家を売却して納税する必要があるの?
先日、親しい知人からこんなご相談を受けました。
「うちの叔母がもう90歳を超えていて、いまは病床生活。余命も長くないと医師から言われている。
叔母は独身で子供もいないけれど、私は養子縁組をしているから相続人になる。
ただ、相続税って10ヶ月以内に払わないといけないって聞いたし、もしも家を売らないと納税できなかったらどうしよう…」
これは、最近とても増えてきているご相談のひとつです。
今回はこのケースを通して「相続時に家を売らなければいけないのか?」というテーマについて
考えてみたいと思います。
自宅を売らなくてもいい? 相続評価額をチェック
まず、相談者の一番の不安は「納税のために家を売る必要があるかどうか」でした。
そこで私たちが行ったのは以下のような調査です。
◆ ご自宅の所在地をヒアリング
◆ 登記簿謄本の取得と内容確認
◆ 土地と建物の広さ、路線価から評価額を算出
場所は奈良県某町。駅から徒歩5分と立地も良く、敷地は約70坪。
広さ的にはしっかりとした住宅でしたが、土地・建物の評価額を合算しても
相続税の基礎控除(3,000万円+相続人1人=3,600万円)を下回る結果となりました。
つまり「家を売らなくても、相続税はかからない可能性が高いですよ」
とお伝えすることができたのです。
現金や金融資産での納税も視野に
さらに、この叔母様は自営業をされていた方で、そこそこ資産をお持ちのようでした。
預貯金や有価証券(株や投資信託など)の正確な金額は分かっていないものの
ある程度の資産があることは間違いないだろうと判断できました。
そこで、仮に相続税がかかることになったとしても
「家を売らずに、まずは現金や金融資産を活用して納税すれば問題ありません」
と助言させていただきました。
相談者の方はその場でほっとした様子で「それなら安心しました」と
笑顔を見せてくださいました。
最近は “まず不動産屋に相談” というケースも増えています
本来、相続税がかかるかどうかの判断は、税理士さんにご相談いただくのが一般的です。
ただ、最近では「まず不動産業者に相談してみよう」という方も増えてきています。
というのも、相続税の計算において“どれだけ不動産の価値があるか”という点が
非常に大きな要素だからです。
不動産の相続評価は、税理士さんであれば評価額をある程度スムーズに算出できます。
ですが、実際に
「その家を売ったらいくらになるのか?」
「簡単に売れる物件なのか?それとも時間がかかるのか?」
という点までは税理士さんだけでは判断しにくい部分です。
私たち不動産業者は、売却の難易度や市場価値、周辺状況なども含めて総合的に判断します。
場合によっては現地まで足を運び、土地の形状や道路との関係、
近隣との境界問題の有無などを見極める必要もあります。
今回のケースでは、Googleマップや公図などをもとに周囲の状況や接道、隣地との関係などを
確認したところ、比較的シンプルな土地だったため、現地確認なしでも判断が可能でした。
しかしながら、すべての物件がそうとは限りません。
一見すると平凡な住宅地でも、入り口が狭かったり、旗竿地だったり
あるいは古い境界トラブルがあったりするケースもあります。
だからこそ「相続税がかかるかどうか?」の前に「この不動産はどう扱えるのか?」という視点から
まずは私たちにご相談いただくのも、決して間違いではないと思います。
売却には “譲渡税” という落とし穴も?
ところで、相続後に不動産を売却して現金化する場合には、もうひとつ注意すべき点があります。
それは「譲渡所得税(いわゆる譲渡税)」の存在です。
家を売って利益が出た場合、その利益に対して税金がかかるのです。
ただし、相続による売却には「取得費加算の特例」という軽減措置があります。
これは、相続税の一部を“取得費”に加算できる制度で、譲渡益を圧縮し
結果として課税を軽くできる場合があります。
この特例も、条件や期限がありますので、売却を検討する際は事前に確認することが大切です。
おわりに:まずは冷静に状況を把握することから
相続というと、何から手を付ければいいのか分からず、不安になってしまう方も多いかと思います。
でも、今回のように評価額を調べたり、他の資産の有無を確認するだけでも
必要な手続きや判断がぐっと明確になります。
「家を売らないとダメかもしれない…」と焦る前に
ぜひ一度、信頼できる専門家に相談してみてくださいね。